東京対談 #16 アレック・ハリスさん

東京対談

あなたに会えてよかった。

2008年2月11日(月)

#16 アレック・ハリスさん

アレックさんの生の声が聴けます!

多国籍劇団 "New  Worlds Theatre" 座長(1996年に来日)

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素晴らしいキャストと共に
素晴らしい仕事ができ、お客
さんもたくさん来てくれる。
そのうえ評判も上々だったら
これ以上の喜びはありません。


シェイクスピア生誕の地イギリスご出身、多国籍と多文化共生を掲げる国際派演劇集団の座長を務めるアレック・ハリスさんです。数年間岩手県で大学教授をした後、東京に移り自身の劇団を立ち上げました。東京が社会的にも芸術的にも国際化してほしいとアレックさんは望んでいます。
社会問題を冷静に見つめ、東京で外国人が経験するであろう全てのことを「僕にとって良い経験になるよ」と笑って受け入れる英国紳士のアレックさん。東京に住む様々な国籍の人々との交流を大切にし、新しいことに今、挑戦しようとしています。

* インタビュー@ Homework's(港区麻布十番)



English



東京に来るまで、演劇とは無縁だった。

僕が東京に来たのは12年前です。でも来てからすぐに岩手県に移って、そこに7年間いました。大学で働いていました。だから東京に来てからは、実質まだ3年です。こちらに移る前は、ただひたすら働いていました。その間、演劇に関わることもなく、エキサイティングとは縁遠い生活でした。イギリスやいろいろな国で、新聞に結構寄稿していましたが、それらは全く演劇とは関係なかったし、岩手県に大学教授として勤務していましたので、劇を書くこともなかったです。
僕は本来はジャーナリストで、それまでイギリスの新聞や雑誌に寄稿していました。それで東京に来てから演劇に携わるようになりました。日本人の友人が東京に小劇団を持っていて、外国人の観客向けの舞台を作ろうとしていました。その台本を頼まれたのが、僕が演劇界に足を踏み入れたきっかけです。僕はその劇団のために短編をいくつか書きましたが、残念ながら上演されることなくその劇団は解散してしまいました。それらの作品はアメリカで上演されたみたいですが、実際、僕自身は観ることはありませんでした。

IMGP6483.JPG Interview by Hisa


自分独自の舞台を作ることに決めた。

実際に演劇の台本を書き始めて、僕はその魅力にハマりました。もともとは演劇よりも映像寄りの仕事をしていて、4年ほど前にはBBC向けの台本も書きました。だからアイデアはあったんですよ。だけど、それらを演劇向けにアレンジするのに苦心しました。何をしていいのかわからない。じゃあいっそのこと、僕自身で台本を書き、舞台作りまでやってしまおうと決めたのです。
さっき話した僕の友人に向けて書いた演劇は、異文化の交流がテーマです。「東洋と西洋の邂逅」について描かれた3つの物語が、最終的には1つの物語に収斂していく。書くのは楽しかったです。でも、こういうテーマって、もう書き尽くされた感じがするから、今更僕がやらなくてもいいかなって思いましたね。
だから僕の初演作は、そういうのとは関係ないものにしました。「Writing William」というタイトルで、内容は落ちこぼれの演劇集団がニューヨークで嘘のシェークスピアの芝居をするというものです。そしてそれが大当たりし、落ちこぼれどころか最高のキャストだと評判になる。そういうストーリーです。


全てにおいて大切なのは「対比」です。

あらゆる芸術作品の基礎となっているのは「相違」だと思います。社会における違い、例えば男性と女性、人間関係、そして文化の違い・・・全てにおいて「相違」がついて回ってきます。
僕が初めて書いた作品も日本人と外国人の違いについてでした。日本とスペイン、日本とイギリス・・・僕がこの前上演した「ラスト・クリスマス」も、文化の違いがテーマです。キリスト教徒とユダヤ教徒、アメリカとアメリカ以外の国、というふうに、すべての演劇において対比、コントラストというのは重要な要素です。そしてそれは書く方にとっても魅力的な部分ですね。「ラスト・クリスマス」では、数名のアメリカ人の役者さんを起用しました。主役はイスラエル人です。彼らは、僕がイギリス流に書いた台詞をアメリカ流に手直ししてくれました。例えば「積雪は2センチにも満たなかった」という表現にしても、アメリカ人は「センチ」なんて使わないから、変えていったりしました。
これが演劇の楽しさですね。単に台本を書くこととは違うんです。映像用の台本とか本とかでは、こうは行きません。演劇では、役者さんも脚本家と同じように台本を作っていくことができる。役者さんが僕の作った台本を変えていき、また役が劇そのものに影響を与えていきます。そうして生まれた変化を柔軟に受け入れていくのは、すごくエキサイティングな作業です。

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舞台「ラスト・クリスマス」


東京は多国籍劇団にとって最高の場所。

過去には創立120年という老舗の多国籍劇団「トウキョウ・インターナショナル・プレイヤーズ」と一緒に仕事をしたこともあります。実際のところ、東京にはこのような多国籍の劇団がたくさんあります。友人の一人はインドネシアの劇団を運営していますが、インドネシア語の劇に200人も観客が来るんですよ!こういうグループが東京にはあるんですが、言葉の違いや翻訳の難しさが原因で、観客にうまく伝えていくのは難しいです。
だから僕の劇団では、来年上演する「リチャード3世」以降全ての作品で、日本語の字幕を流す予定です。僕は将来、これは日本語の演劇、これは英語の演劇、なんてものがなくなればいいなと思っています。
イギリスでは、多国籍の俳優が一つの作品を作り上げるような劇団を結成するのは簡単だと思います。でも、今の僕の劇団のレベルには届かないでしょう。ヨーロッパやアメリカでも無理です。新人とか若手は発掘できても、僕が東京で出会った役者のレベルには到底達しないでしょう。他の国ではこれほどのレベルは期待できないと確信しています。

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「ラスト・クリスマス」の一部の公演で日本語字幕を使用。


東京はとてもオープンだと思います。

僕はロシアとかイタリア、ヨーロッパなど違う国々で働いた経験がありますが、アジアに来たことは一度もありませんでした。ロンドンで修士号を得た後、短期の旅行をしようと考えたんです。それで日本に来ました。当時は、日本に6ヶ月から1年だけの滞在を予定していましたが、いつの間にか12年、ここにいます(笑)。12年前、日本文化や日本のハイテク技術はイギリスでも大きい存在でした。だから僕はイギリスから離れて、全く別の文化に触れてみたかったんです。驚いたのは、日本に外国人が住むことの容易さでした。12年前ですよ。例えば、道路標識は英語でも書かれていて、人々は僕らに英語で話そうとしてくれる。外国人が日本で暮らすことの容易さに感激しました。とってもオープンで、温かい。特に東京は外国人にとって、世界中で最も住み心地のよい街だと思います。最近、日本のいくつかのレストランが「ミシュラン」で2つ星とか3つ星という高い評価を受けました。パリやイタリアよりも高い評価を受けています。それは今、東京がいかに文化の多様さを持ち合わせているかの表れだと思います。他の国に比べて、日本人や日本文化は僕らをとても歓迎してくれます。


日本文化には、本当に入り込んで行けました。

東京は、ますます国際化しています。素晴らしいです。でも東京の優れた点は、なんといっても交通の便の良さですね。東京は他に類を見ない、効率的で機動性があり、しかも安全な都市なんです。また、ミシュランが多くの星を日本のレストランに与えたのは、料理の素晴らしさだけでなく、東京の街を回って歩くことの容易さもその理由のひとつだと思います。
僕はいろんな国に滞在して自分にとって未知の文化を体験するのが好きです。だからアフリカやロシアにも行ったんですが、そこにいたいと思ったことは一度もありませんでした。単なる旅行で終わりました。だけど日本に訪れた時は、本当に文化に入り込んで行くことができました。僕は岩手県に9年ほど住みましたが、あまりに魅力的な場所だったので離れることを忘れてしまったんです(笑)。


日本人にすごく助けられています。

どこの国に行っても、文化には壁が存在します。イギリスだって、今では移民が大きな問題です。最近では特に中東からの移民ですね。白人のイギリス人、黒人のイギリス人、インド系のイギリス人・・・近年になってイギリスに来た移民の誰もが、(彼らよりももっと後に来た)中東からの移民を好ましく思っていないという現状があります。日本にも、もちろんそういう問題があります。日本の社会が外に向かって開かれ、より多くの外国人が入ってきます。それが問題を引き起こします。日本人と外国人の間には壁はあります。だけど一般に日本人は親切で人には優しく接するという考えがあるので、普段の生活はとても居心地がいいです。
だけど日本の社会に入り込んで、社会の一構成員になるのは多少難があります。ネイティブレベルの日本語がしゃべれる友人でさえも、外国人から日本人になることは難しいと言っています。イギリスには非白人のイギリス人やインド系イギリス人がいますが、肌の色がどうかということは一切問題にはなりません。しかしここでは、純粋な日本人ではないということは多少なりとも問題になります。
僕らが演劇の仕事をする時も、厄介なことが出てきます。劇場の予約や手配は本当に厄介です。劇場には、時々外国人が劇場を使用することを不安に思う人がいます。僕らは日本人の助けを借りて予約から手配、宣伝などをこなすことができましたが、彼らの助けなしでは不可能だったと思います。日本の外国人人口は多いですが、それでもまだわずかでしょう。だから、より多くの観客に僕らの伝えたいことを伝えるために、僕らは日本人の助けが絶対に必要なのです。


国籍を越えたコミュニティーをつくる。

新しいことをするために、目の前に立ちはだかる壁を壊して行くことはとっても難しいです。でもそれは、楽しむべき挑戦なんです。僕らの劇団にもっと多くの日本人を呼び込めば呼び込むほど、劇団は国際的なコミュニティーになれるんです。
ネイティブスピーカーだけのコミュニティーにすることはとても簡単です。でも同時に危険でもあります。そんなことは望んでいません。僕らは、国籍や文化、言葉の枠を超えた「東京コミュニティー」を作りたいんです。インドネシア人がいて、中国人がいて、イギリス人がいて、もちろんそこに日本人もいて・・・そういう人たちが、僕らの活動に参加していく。そうやって真の国際的なコミュニティーを築いていけるんだと思います。


全ての白人にとって良い「教育」。

日本の生活を通して、僕が日々教わることがあります。それは「外人でいるということとはどういうことか」ということです。イギリスには人種差別や移民に関する大きな問題がありますが、僕はイギリス出身の白人なので、それらの問題においては常に優位な存在です。しかし日本では僕は明らかにマイノリティーだから、移民や人種問題について考えた時、僕は問題視される側になります。母国にいる時とは自分の位置が逆転するんです。これはすべての西洋系の白人にとってはとてもよい「教育」ですね。実際、僕らは自分が外国人であるなんてことを考えたことがありません。常に「イギリス人」「アメリカ人」なんです。だから日本で白人でいることは、僕らが母国で移民や外国人をどのように扱ってきたのか、それを教えてくれる良い「教育」なんです。



「良い差別」と「悪い差別」

すべての文化において、「良い差別」と「悪い差別」が存在します。レストランやバーとかでは「悪い差別」に遭遇しますね。麻布十番のような外国人がたくさん住んでいるエリアでさえ、そういうのがありますよ。僕が外人だからという理由で入るのを断られたバーがこの辺に結構あります。日本に限らず、全ての国の文化には、良い差別と悪い差別があります。でも日本で遭遇するのは、普段の生活では良い意味での差別が多いですね。僕の今までの12年間の日本での生活を振り返ると、道に迷っていると、さっと人に助けてもらったりしたことが結構多かったです。彼らは道を聞くとちゃんと教えてくれました。しかも彼らは一生懸命英語を話そうとしてくれましたしね。
これからの10年間の僕らにとっての課題は、そういう「良い差別」を維持できるか、ということです。今後さらに多くの人々が日本に来るでしょう。中国人やインドネシア人、タイ人などが日本に来て、その一方で日本人そのものの人口は減っていく。そうなった時に、日本人が持っている親切心を維持できるでしょうか。また将来私たちはそういう事態に対してどのように振舞うべきなのでしょうか。これは日本人にとっても外国人とっても難しい問題です。外国人は、「僕らは歓迎されていない」っていくらでも言えるでしょう。だけど外国人である我々も、日本語を学んで日本の文化の担い手になる努力をしていかなくてはなりません。一方で日本は、外国人の受け入れ人数を、一気にではなく、ゆっくりゆっくりと増やしていく必要があると思います。



演劇で「分裂」の流れを食い止めたい。

東京では、まだまだコミュニティーが人種や文化ごとに分かれているように思えます。僕らは演劇を通して、そういう分裂の流れを食い止めたい。イギリス人はイギリス人とだけ話し、アメリカ人はアメリカ人とだけ話す。フランス語のコミュニティーとか英語のコミュニティーがある。アラビア語のコミュニティーがある。それぞれ違いがはっきりしていて、しかもお互いが交流することもありません。僕らはそうやって分裂したコミュニティーを、一つのコミュニティーにしたいと思っています。
イギリスやロンドンで懐かしく思うのは、新しい人との出会いです。日本であまり好きじゃないのは、そういった新しい人との出会いが足りないことです。日本には友達の輪があって、そこにいるのは常に同じメンバーです。誰かが新しく加わったり、顔ぶれが変わったりすることはありません。方やロンドンには、新しい顔ぶれに出会えるようなバーが街中にあり、毎晩が新鮮です。そういうのが懐かしいですね。


お金が問題ではありません。

僕は自分がやりたいことをしています。お金は問題ではないけど、だからといって取るに足らないもの、と言い切ってしまうこともできません。もし運がよければお金を得ることができる。僕にとってお金はそんな感じの存在です。僕はただ作品を書いて、自分が書いた作品をプロデュースして演出する。お金はその後からついてくるものです。去年上演した作品の中で、特に三つ目の作品では素晴らしいキャストと共に素晴らしい仕事ができ、またお客さんもたくさん来てくれました。そしてお客さんからの評判も上々でした。これ以上の喜びはありません。これこそが、正しく僕が欲しいものなんです。
実際、このレベルの役者やスタッフに出会える場所であれば、日本だろうが他の国だろうが、僕は住む場所にはこだわりません。

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アレックさん &「ラスト・クリスマス」出演者たち


アレックさんにとって、東京って何ですか?

東京はありのままの自分でいられる「故郷」です。
快適に暮らせる街であり、物事を達成できる街です。
そして街の文化に参加して、外国人である自分も文化の
担い手になることができる。東京はそういう場所です。


アレックさん関連リンク

"New Worlds Theatre" ホームページ(日本語):
http://newworldstheatre.com/japanese/index-jap.html


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