関西ちりとてちん対談 #2 ムズラックル・ハリトさん

関西ちりとてちん対談

あなたに会えてよかった in 関西

2008年3月22日(日)

#2 ムズラックル・ハリトさん

大阪大学大学院日本学専攻/落語パフォーマー

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落語は、自分探しですね。


NHKドラマ『ちりとてちん』の舞台・関西からお送りするインタビュー、お2人目はトルコ・イスタンブールご出身のムズラックル・ハリトさんです。
静かな語り口調で、言葉を丁寧に選びながら話すハリトさん。初めて来日した2001年に、当時の留学先の筑波大学で落語に出会いました。そしてその3年後に再び来日して、今度は大阪に自らの拠点を置き、落語パフォーマー「我楽亭巴里飛」(わらってい・はりと)としての活動を始めました。
ハリトさんが落語にのめり込んだひとつのきっかけは、トルコではもう廃れてしまった伝統芸能「メッダフルック」でした。日本の伝統話芸の落語と、トルコの伝統芸能。ハリトさんの中で、どのようにしてつながっていったのでしょうか。

*インタビュー@ 京大会館(京都市左京区吉田河原町)


*ハリトさんに関する新聞記事:こちらから
(このインタビューの直後に行われたハリトさんの講義のもよう)




English




伝統芸能「メッダフルック」

トルコの伝統話芸であるメッダフルックは、落語と同じように一人でやるスタイルなんですね。実はもう演じられなくなっています。20世紀以降にだんだん下火になって古典化していった芸能で、もう演じている人はいないです。
落語やメッダフルックが他のストーリーテリングと違うところというのは、「演じる」ところなんですね。ただストーリーを語るだけじゃなくて、落語やメッダフルックは演じ分ける。それはすでに一人芝居なんです。
落語の世界というのは厳しい上下関係や師弟関係があるから、落語の伝統を受け継ぐ人はすごい厳しい世界で育っていくわけで、そうやって文化というのは守られていくという気がするんですね。メッダフルックの場合は、そういう師匠と弟子の関係というのはそこまで厳しいものではなかったと思いますし、ちゃんとした形になってなくて、それで無くなっていったというふうに思います。

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トルコの伝統芸能「メッダフルック」についての講義(京大会館)


トルコと日本の意外なつながり。

トルコでは高校から大学にかけて、ずっと英語を習っていきます。それで大学では、僕は第2外国語として何か習いたいと思い、日本語を選べました。なぜ日本語かというと、たまたまだったんですよ、正直言って。トルコから離れている、違う場所に行きたかったというのもあったんだろうし、トルコ人は日本に対して良くないイメージは持っていないんですね。割と親日なんです。そういうことで、日本語はいいんじゃないかな、と思いました。あと、漢字などの文字も面白いと思いました。
でもまさか、こういうふうに日本に来て落語までやる、そこまで日本文化にハマるとは思わなかったですね。


舞台好きの血が騒ぐ。

落語と出会ったのは、筑波大学に行っていた時です。留学生センターの教授が日本語会話の授業をやっていたんですね。そこで授業の一環として、亡くなった小さん師匠(故5代目柳家小さん)の落語を聴かせてくれて、落語で日本語を教えていたんです。それで先生の知り合いが柳家さん喬師匠なんです。そういう経緯で「落語を見に行きませんか?」と声を掛けて下さって、それで初めて落語を見に行ったんです。
もともと僕は舞台に上がることが好きで、小学生くらいの頃から、時間があれば友達の前でネタを披露するとか、即興で何かをやっていたことを今でも覚えていますね。結構そういうことが好きでした。
あと、トルコの大学で日本語を習っていた頃に『走れメロス』の本を渡されたんですね。「時間がある時に読みなさい。日本語の勉強になるから」ということで。それを読んでみて「じゃあこれを劇にして、仲間たちを集めて披露してはどうか」と思って、実際に上演したんですよ。トルコの大学で、日本語で。メロス役は自分だったんですけどね。そういうのが好きだったんです(当時の上演のもようはこちらに詳しく書かれています)。
筑波大学に来て落語という芸能の存在を知って興味を持ったのは、多分自分の舞台好きというのもあるだろうし、落語は一人でやっているわけですから「仲間を集めなくても自分一人で出来るんだ」というのもあったし。
あと、トルコの昔の伝統芸能の「メッダフルック」と似ている部分もあって、親近感を覚えたというのもあって落語にハマっていった。自分もやってみたい!と思うようになりました。


大阪で日本の文化を学ぶ。

2002年にトルコに帰って、大学の最後の1年間(筑波大学には、大学4年になる前に1年間休学しての留学だった)の課程を修了し、卒業論文も書きました。その年に、トルコにある日本大使館で国費留学の試験を受けたんです。それに受かって、留学先が大阪大学大学院に決まって、そこで日本学を専攻しようということになって、今度は大阪に行くことになりました。
落語のパフォーマーとして行けるところまで行きたいという思いがあるんですが、今専攻している日本学というのは、民俗学的や宗教学的な見地から、また政治や戦争などの観点から日本人を見ていくということで、それが良いのではないか、と。そういう勉強をすればもっと落語を理解できるだろうし、日本人の考え方とか、いろんな面が見えてくる。大きく言えば文化ですね、日本文化。自分も落語をやっていて、やっぱりその辺が大事になってくるんですね。違う文化の人が落語を鑑賞するということになると、言葉の壁を超えたとしても、今度は文化的な壁にぶつかるわけです。


自分だけ笑えない。

初めて落語を見に行った時の話なんですが、当時は落語を全て理解できるような日本語力もありませんでした。それで、周りがみんな笑っているんですね。それで、自分だけ笑えない。それは日本語力が足りないからというのもあったんですけど、それだけじゃなくて、何か文化的な、日本人しか持っていない何かがあるのか?と思ってムカついたんです。「何なんだこれは?」って。落語の研究を続けていきたいというきっかけというのは、そこから生まれたと思いますね。「なぜ自分だけ笑えないのか」という・・・。
でも、その時は結構前の方に座っていたんですよ。多分その時演じていた落語家さんは、笑っていない外国人に気づいていたんだ、彼にとって自分は迷惑だったんだと思いますね(笑)。落語をやっているときは大事なんですよ、お客さんの反応というのは。だけどこの外国人は笑っていない。その落語家さんは、演じてる最中気になっていたんだと思いますね(笑)「笑っていないのに、何で来たの?」って。だから、迷惑かけたな〜と思います(笑)。


トルコの人の落語を応援してくれる。嬉しいけど、少し悔しい。

大阪は好きですね。日本で一番、笑っている人が住んでいるんじゃないかな。日本で一番元気な所は大阪じゃないかと思うんですよ。こだわっていると言いますか、大阪の人というのは笑いに対してもそうなんですね。
上方落語は東京でもある程度ウケるんですね。笑いがとれるんですけれども、東京の落語家さんが大阪に来ると、また一段難しくなるんです(笑)。だから大阪の人の中には、東京の落語をあまり好まない人が多いんですよ。だから東京の噺家さんは大阪に来るのを怖がっているみたいですね。「ウケなかったらどうしよう」っていう。
ただ僕がやっているのは江戸落語の噺が多くて、普段も標準語でじゃべっていますね。関西の人、大阪の人というのは、東京の笑いを素直に受け入れないという部分があるというのは事実なんですけど、逆に、自分の演じるのは江戸落語であった方が、大阪の人にとっては自然に聞こえるかもしれないです。
トルコの人が落語をやっているのを見て、何か応援したくなる。そういう感じで見られているとは思いますね。だけどパフォーマーとしては、その辺は悔しいところもあります。純粋に演技力で評価されて、パフォーマーとして見てもらうためにはどうしたら良いか、という・・・もちろん、応援してもらうというのはすごく良いことです。でも、パフォーマーとして評価されるためには、トルコの噺を演じてみるという試みも必要かもしれませんね。また英語落語というのもあります。英語落語の方が、外国人が演じるわけですから自然に聴こえる、というのがあるんですね。


パフォーマーとして認められるために。

落語というのは親近感が大事になってきます。初めて見に来た人が、その次また見に来てくれた時は、その人の反応は違ってくるんです。初めて見に来て、パフォーマーとしての演技力まで見るというのはなかなか出来ないかもしれないですね。だけど2回目に見に来た時から落語家のキャラクターが見えてきて、楽しくなっていくという所はあると思います。つまり、これからも落語をやり続けて、いろんな人に自分の存在を知ってもらえれば、純粋なパフォーマーとして認めてもらうことが可能になってくると思います。
大事なのはキャラクター、それと経験ですね。あと顔を覚えてもらう。そういうのが大事だと思います。今は自分も新聞やテレビにもちちょこちょこ出ているんですが、それでもある程度顔を覚えてもらわないと、パフォーマーとして認めてもらうのは難しいと思います。


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トルコの民族衣装で演じた江戸落語「おしゃべり往生」in 京都!



実は、和食が苦手。

正直言って、和食は苦手ですね。まぁ、最初に日本に来た時と比べたら、いろいろ食べられるようになったんですけど、やっぱりダメですね。レストランとかには、自分からは食べに行かないですね。でも特には苦労してないです。和食だけのレストランでも食べられるものはいっぱいありますし、絶対に食べない、断る!というのは無いです。だけど、出来れば食べたくない(笑)うどんは好きなんですけどね。
でも味が分かる・分からないは、落語では大事ですね。自分が経験していないことを演じるというのは難しいです。というか、出来ないと思います。だから出来るだけ、食べ物が出てくる噺を避けるなり(笑)食べ物のネタが無い噺を選ぶなりしますね。だから、今話題になっている「ちりとてちん」(江戸落語では「酢豆腐」。何でも知ったかぶりをする男に一泡吹かせるため、棚から出てきた腐った豆腐を「長崎名産 ちりとてちん」として男に食わせるという相談がまとまる。そうとは知らずに訪れた男が、案の定「ちりとてちん」を知っていると言うので食わせると、一口で悶え苦しむ。「どんな味や?」と聞くと、男いわく「ちょうど豆腐の腐ったような味や・・・」というオチがつく)は、元々は腐った豆腐のお話だから、あの噺は出来るんじゃないかな、と思います。腐った豆腐を食べた時の表情は、自然にできるんじゃないかな、と(笑)。


違う国に行って初めて、自分の国の文化がわかる。

今後は、やはりパフォーマーとして自分を磨いていくことが課題ですね。でも、最終的にはトルコに帰ると思います、いつか。その時には、今までやってきた落語をトルコに紹介したいという思いがあります。トルコにもかつてあった「メッダフルック」という芸能を復活させる、というほどじゃないですけど、同じような話芸が日本にもあって、ちゃんと伝統が守られていて、今でも日本人がそれで楽しんでいる。そういう「生きている伝統芸能」が日本にはあるんだということを強く訴えていきたいと思います。「独自の文化を守っていきましょうよ」と。
違う国の文化を通して自分の国の文化を見る。そうなんですよ、違う国に行って初めて、自分の国の文化がわかるというのがあるんですよ。日本に来たからトルコを考えるようになったというのがあるんですね。「メッダフルック」についても、僕がトルコにいた時は何となく、そういう芸能があったということは知っていても、関心は持っていなかったですね。でも日本に来てからは全てが気になるというか・・・日本を理解するためには「じゃあ自分の文化ではどうなのか」と考える必要があって、そう思うと、今度は自分の国についても知りたくなります。

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京都の一大繁華街・四条河原町にあるトルコ料理店
「イスタンブール・サライ」にて。


将来は、メッダフルックに挑戦も?

トルコに帰るまでに日本で実現させたいのは、やっぱり落語ですね。落語にハマって、舞台や高座で落語をやるようになったから、やっぱり続けていきたい。その気持ちが強いです。ここで終わりたくない、ここで切ってしまうともったいないという気持ちが強いです。
そしてトルコに帰ったら、メッダフルックを演じるかもしれないです。僕は日本に来る前は、トルコの伝統芸能について何も知らなかったんですよ。日本に来てから興味を持ちました。だって、人から聞かれるから。それでメッダフルックのことを調べてみたら、もっと知りたくなる。だから、トルコに帰ったらいろいろと調べて、出来ればパフォーマーに・・・。でも、なかなか難しいんですよ。もう無くなった芸能をやるためには、すごくアレンジしていかないと、人は受け入れないと思います。でもアレンジしたら、それはもはやメッダフルックじゃなくなるんじゃないか、とも思いますから、難しいです。


落語が消滅していく心配は、今のところ無いと思います。

落語はちゃんと守られていっているという気はしますね。今のところはテレビの影響もあるだろうし、「ちりとてちん」もそうなんですけど、今はちょっとした落語ブームでもあります。あと英語落語という形で、英語に関心を持っている人と落語を組み合わせた新しいジャンルも生まれています。だから落語が無くなっていくという心配は、今のところ無いと思います。もちろん落語の時代じゃないですけどもね。

IMGP7193.JPG 撮影:川根明子


ハリトさんにとって、落語って何ですか?

落語を通して自分を探しているというか、「自分を表現
したい!」っていう自分探しだと思いますね。

それに落語は、日本文化や日本人を理解する入り口というのもありますし、

落語を通して自分の文化が見えてくる、そういう存在です。


ハリトさん関連リンク

ブログ「Rakugo Performer ハリト」 http://warattei.exblog.jp/




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